体験活動の意味

(1)「経験」「体験」「体験活動」の意味の整理

1)「経験」「体験」「体験活動」の定義

「経験」「体験」「体験学習」「体験教育」等々,体験活動に関する語句は,いくつか用いられていますが,明確な定義があるとはいえません。
そこで,本ガイドブックでは,各語句を,中央教育審議会答申「次代を担う自立した青少年の育成に向けて」(平成19年)で提示されている,以下のとおりに用いることとします。

<経験>

人間が実際に見たり,聞いたり,行ったりすることを広く指して用いている。

<体験>

経験のうち,経験する者の能動性や経験の内容の具体性に着目して,能動的な経験や具体的な経験を指して用いている。

<体験活動>

体験を通じて何らかの学習が行われることを目的として,体験する者に対して意図的・計画的に提供される体験を指して用いている。

2)体験活動の意味

前述のとおり「体験活動」という語句には,教育的な意味が内包されているといえます。
つまり,指導者が,子どもたちの学習目的(教育目的)を設定し,その目的を達成するために,意図的・計画的に活動を提供する。この提供する活動が「体験活動」ということです。
例えば,子どもたちに「達成感を味わう」という「体験」をさせたいために(学習目的),登山や野外炊飯という「体験活動」を行うということです。言い換えれば,登山や野外炊飯は,達成感を味わうという「目的」を達成するための「手段」ともいえます。 もちろん,登山や野外炊飯を体験するということ,つまり,活動自体を目的とすることも考えられます。

図 体験活動の要素

(2)体験の意義

子どもたちの心豊かな成長にとって,体験がいかに重要であるかを示した調査結果があります。

1)青少年の自然体験・生活体験と自己肯定感

国立青少年教育振興機構が,全国の小学校4~6年生,中学校2年生,高校2年生に対して実施した調査によると,「ロープウェイやリフトを使わずに高い山に登ったこと」「夜空いっぱいに輝く星をゆっくり見たこと」といった「自然体験」や,「ナイフや包丁で,果物の皮をむいたり,野菜を切ったこと」「タオルやぞうきんを絞ったこと」といった「生活体験」が多い子供ほど,「自己肯定感」が高い傾向にあると報告しています。

「青少年の体験活動等に関する実態調査」(平成26年度調査)
国立青少年教育振興機構平成28年5月

2)自然体験と学力の関係

「平成27年度全国学力・学習状況調査」では,「自然の中で遊んだことや自然観察をしたことがある児童・生徒ほど,平均正答率が高い傾向にある」と報告されています。自然の中で遊ぶことにより好奇心が育ち,理科を学ぶ意欲が高まったことがうかがえます。
また,知識に体験が加わることで実感を伴った理解になり,知識の定着や活用につながっていくといえるでしょう。

(3)体験活動の目的

1)目的の整理

「体験活動」では,どんな「目的」が設定できるのでしょうか。言い換えれば,「体験活動」によって,どんな教育的な効果が期待できるのかということです。
下図は,「自然体験活動の目的」を,「小学校学習指導要領『道徳』の内容を参考に作成したものです(前掲の「山口徳地自然の家の教育機能」も同じように考えました)。

図 自然体験活動の目的

2)「目的」と「目標」

「目的」と「目標」も,「体験」と「体験活動」と同じように混同されがちなので,下図のように整理しました。
「目的」は,抽象的に表されます。例えば,学校の集団宿泊活動やスポーツチームの合宿の場合,「仲間を思いやる力を育てる」や「学級のまとまり(チームワーク)を高める」といったことが目的として設定されます。
では,「仲間を思いやる力」や「学級がまとまる」とは,具体的にどんなことなのでしょうか。子どもたちが,どんな言葉や行動がとれるようになったら,仲間を思いやる力がついたといえるのでしょうか。
このように,「目的」を,具体的に表現したものを,「目標」とします。また,「目標」として,具体的に表すことができると,体験活動によって得られた成果を測定する際の指標になり,「評価」する際の資料となります。

図 目的と目標の構造

(4)体験学習

1)「体験学習」とは

「体験活動」が,子どもたちの成長にとって重要であることが指摘され,その推進が求められているなか,敢えて,「体験学習」という言葉を用いる場合があります。「子どもたちが体験から学ぶことを大切にする」という考え方に基づいたものです。

2)「体験学習」にするための留意点

①「目的」を明確にし,「目的」に連動させて
「活動」と「指導法」を組み合わせる

「体験学習」は意図的な学習活動です。活動の過程で,偶然に生じる学びも大切ですが,宿泊学習等を企画する者が,子どもたちに「どんな力を身につけさせたいのか」,「どんな力を高めたいのか」といった,目的を持つことが大切です。
そして,「目的」を達成するために適した「活動」と「指導法」を組み合わせてプログラムを企画立案します。

②「教える」のではなく,「気がつくこと」を促す

「体験学習」は,子どもたちが主体的に学ぶことを大切にします。指導者は,「知識・技術」を教えるばかりではなく,子どもたちが体験を通して,「気がつくこと」,「感じること」,「発見すること」を支援するという姿勢を持ちます。つまり,直接教えるのではなく,子どもたちが自ら考え・発見するように「仕掛け」をつくったり,促したりすることが求められます。

③「気づき」を「知識」に結びつける「ふりかえる時間」

「体験学習」では,「ふりかえる時間」という活動後に行う思考過程が重要です。
これにはいくつかの段階があります。

1step 活動で,「どんなことが起こったのか」,「気がついたことは何か」を明らかにします。
2step 1stepで明らかにしたことの意味を考えます。「なぜ起こったのか」といった理由であったり,その時の自分の気持ちであったりします。
3step 2stepで考えたこと・発見したことを,これまでの自分が持つ経験や知識と結び合わせて,「なるほど,こういうことか」,あるいは,「今度はこうしたらどうだろう」ということを考えることにより,新しい知識や考え方・見方を獲得します。

④「わかちあい」で「気がついたこと」を深める・広める

「体験学習」をグループで行う場合,「話し合う時間」で気がついたことや考えを話し合う「分かちあい」を行うことが効果的です。
仲間の意見を聞くことで,自分では気がつかなかったことを知ったり,仲間の意見に触発されて,自分の考えが深まったりします。

3)体験学習サイクル

何らかの体験をすれば,そのことだけで,学習したとするものではない。「体験学習法」とは,今ここでの体験によっての気づきにこだわり,さらにはともに体験して,気づいたこと,感じたことをわかちあい,その解釈から,学びを深めて次の行動へと生かしていく循環過程として,構造化される教育方法である。『野外教育指導者読本』(平成11年 野外教育指導研究会)引用

この「循環過程」を「体験学習サイクル」と呼びます。いくつかのパターンがありますが,山口徳地自然の家が「協調性をはぐくむプログラム」で取り入れている「体験学習サイクル」をご紹介します。

①目標設定…グループで活動する上での達成目標を設定する。
②実体験…実際に活動する。
③観察とふりかえり…活動中に「何が起こったか」をふりかえり,グループ間でわかちあう。
④抽象概念の形成と一般化…「なぜ起こったのか」,その理由を考える。
⑤試験適用…次の活動に活かすことを考え,試行する。
⑥実社会適用…学校生活など,日常生活に活かすことを考え,実行する。